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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)526号 判決

原告

林伊男

ほか二名

被告

藤原運輸株式会社

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告林伊男に対し、金一一四三万六四四六円及びこれに対する平成八年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自、原告林德子に対し、金一一四三万六四四六円及びこれに対する平成八年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは、各自、原告北畑直榮に対し、金一一四三万六四四六円及びこれに対する平成八年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成八年一二月一六日午前九時四四分ころ

(二)  場所 大阪府吹田市青葉丘北一番一号先道路(市道)

(三)  加害車両 被告坪井日出男(以下「被告坪井」という。)運転の大型貨物自動車(大型トレーラー)(牽引車トラクター、神戸一一く八一一三。被牽引車トレーラー、神戸一二け二八五六)

(四)  被害車両 亡北畑勝義(以下「亡勝義」という。)運転の原動機付自転車(大吹田市ね九一二二)

(五)  態様

前記場所を南西から北東へ走行中の加害車両が、対向車を避けるため左へハンドルを切って、左に寄ったため、折から同一方向で左側並進中の被害車両を転倒させ、加害車両の後輪が亡勝義の頭部及び被害車両を轢過し、亡勝義を脳挫傷により即死させた。

2(責任)

(一)  被告坪井は、大型貨物自動車の進入禁止の本件道路に加害車両を乗り入れ、後方安全確認を怠った過失によって本件事故を惹起させたものであり、民法七〇九条に基づく責任がある。

(二)  被告藤原運輸株式会社(以下「被告藤原運輸」という。)は、運送業を営み、加害車両を保有してこれを運行の用に供していた者であり、かつ、被告坪井を使用して業務を行うに際して、従業員の過失で本件事故を発生させたものであるから、自動車損害賠償保障法三条、民法七一五条に基づく責任がある。

3(損害)

(一)  葬儀費等 一二〇万円

(二)  慰謝料 二五〇〇万円

亡勝義は、本件事故当時、実父母と養母と三名の兄妹の六人家族で幸せに生活しており、立命館大学の理工学部二回生に在籍しており、その専門課程を修めるべく、日々学業に専心するとともに、ボート部に所属し、国体に出場する程のスポーツマンであった。

また、亡勝義は、高校時代においてはボート部にて国体出場も果たし、かつ、インターハイに選ばれて良い成績を残すなど、心身ともに健全で性格も良く、原告らの大きな期待と希望の星であり、全員から愛されており、友人、知人からも親しく敬愛される存在であった。

なお、被告坪井は、本件事故後、逃走している。

かかる亡勝義の死亡による慰謝料は二五〇〇万円を下らない。

(三)  逸失利益 三五一〇万九三三八円

本件事故時、亡勝義は満二〇歳であり、立命館大学二回生として勉学の途中にあり、平成一一年四月から就労する予定であり、二二歳から六七歳までの四五年間就労可能であった。

よって、平成八年賃金センサス(大学)に基づき亡勝義の逸失利益を計算すると、次のとおりとなる。

319万6000円×(1-0.5)×(23.8322-1.8614)=3510万9338円

(四)  弁護士費用 三〇〇万円

4(相続)

亡勝義の相続人は、実父である原告林伊男、実母である原告林德子、養母(兼祖母)である原告北畑直榮の三名であり、亡勝義の被告らに対する損害賠償請求権を各三分の一の割合で相続した。

よって、原告らは被告ら各自に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償として、受領済みの自賠責保険金三〇〇〇万円を控除した残額につき、各金一一四三万六四四六円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一二月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)は認める。

同1(五)のうち、加害車両が南西から北東へ走行していたこと、亡勝義が加害車両の後輪に頭部を轢過されて即死したことは認め、その余は否認する。

2  同2(一)のうち、本件道路が大型貨物自動車の走行禁止道路であることは知らず、被告坪井が後方確認を怠ったことは認める。

同2(二)は認める。

3  同3(一)は認める。

同3(二)は争う。

逆相続であることなどを考えて、一八〇〇万円が相当である。

被告坪井はひき逃げしたものではなく、本件事故が自車と関係しているとは全く思いつかず、車を停めたりなどせずに走行を続けたのである。

同3(三)の計算方法は争わない。

同3(四)は争う。

4  同4は認める。

三  抗弁

1(過失相殺)

(一)  加害車両の走行について

(1) 加害車両は大型トレーラーで牽引車トラクター、被牽引車トレーラーが連結されたものであり、車幅約二・五メートル、全長約一六メートルであり、時速約四〇キロメートルで走行していた。

(2) 被告坪井は、駐車車両を避けて中央線寄りを進行してきた対向車両と離合するため自車を中央線から少し遠ざけ左側へ寄り、離合が終わるとすぐもとの位置に戻したが、左側外側線を越えたわけでもなく、被告坪井のこの走行はごく普通のものであり、加害車両の後続車である普通貨物自動車の運転者(本件事故の目撃者)は加害車両の走行に何の無理も危険も感じていない。

(二)  被害車両の走行について

(1) 加害車両の前記後続車は時速約四〇キロメートルで加害車両と約二二メートルの車間距離をおいて走っていたが、被害車両は、まずその車を左側から追い抜き、その後、加害車両を追い抜くチャンスを窺って何度か左へ寄ったりしていたが、意を決して左側歩道と加害車両の約一・五メートルの間に入り込み追い抜きを開始した。

それは、被告坪井が前記のように少し左側へ寄った時期と重なって、加害車両と歩道との間隔は一・五メートルから一・三メートルくらいにより狭くなった。

それなら被害車両はブレーキをかけて速度を落とし後ろへ下がればよかったのだが、被害車両は無理をしたようである。

後続車の運転者は、被害車両がトレーラーとすれすれに走るのを危ないなと見ていたが、そう思う間に被害車両はバランスを崩して転倒し、運転者は放り出されて加害車両の後輪に轢渦された。

被害車両は加害車両と接触していない。

だから接触によって被害車両が転倒したのではない。

(2) なるほど被告坪井は、少し左側に寄るときに左後方を確認しなかった。

渋滞もしていないし、自車も時速四〇キロメートルでスムーズに走っているし、左に寄るといっても車線変更でもなければ左側外側線をはみ出すような大きなものでもないので、後方確認をする理由も必要もその時の状況では全くなかったからである。

また、一・五メートルしかない狭い道路端を通って追い抜いてくるバイクのあることも考えつかなかった。

(3) むしろ、加害車両を追い抜こうと約一・五メートルほどしかない狭いところを加害車両すれすれに走行した亡勝義の方の過失が大きく、本件事故は亡勝義の自ら招いた事故と見ても差し支えないように思える。

(三)  本件事故後

被告坪井は、対向車と離合した後、元の走行に戻ろうと右へハンドル操作をしたが、そのときトレーラーの荷台の角材や金物が跳ね上がる音が聞こえたので、何か踏んだのかなと左後方を左ミラーで見たところ、バイクの倒れているのが見えたが、自分の後方でバイク転倒の事故が発生したのだろうと思っただけで、自分の車が関係しているとは思わず、そのまま走行を続けた。

以上の事実関係からすると、本件事故に関しては、原告に九割の過失があるというべきである。

2(損害填補)

自賠責保険金三〇〇〇万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)(一)ないし(四)及び加害車両が南西から北東へ走行していたこと、亡勝義が加害車両の後輪に頭部を轢過されて即死したことは当事者間に争いがなく、これに証拠(甲二、五の1ないし6、八、九、証人浅野恒夫、原告林伊男本人、被告坪井本人、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況は別紙現場見取図記載のとおり(以下、地点を示す場合は同図面による。)であり、南西から北東にのびるセンターラインの設けられた歩車道(北東行き車線の北西側に幅二・四メートルの、南西行き車線の南東側に幅二・六メートルの各歩道あり、車道部分より一段高くなっている。)の区分のある片側一車線(幅員は北東行き車線四・二八メートル、南西行き車線四・四メートル。北東行き車線の北西側に歩道からの距離一・〇メートル、南西行き車線の南東側に歩道からの距離一・一メートルに車道外側線が設けられている。)の道路(以下「本件道路」という。)であって、最高速度を時速四〇キロメートルと規制されている。

2  加害車両(大型トレーラー)は連結された状態で、車幅二・四九メートル、全長一六・一〇メートルある。

3  被告坪井は、加害車両を運転して本件道路の北東行き車線を南西から北東に向かい時速約四〇キロメートルで走行(加害車両左側と歩道との間隔は約一・五メートルで、車道外側線との間隔は約五〇センチメートル付近)しており、その後方約二二メートルを浅野恒夫(以下「浅野」という。)運転の普通貨物自動車(以下「浅野車両」という。)が追従していたところ、亡勝義は被害車両(原動機付自転車)を運転して、浅野車両の後方から、同車両の左側を追い越していき、加害車両の後方を追従した後、道路左側に寄り、加害車両と歩道との間に進入して、加害車両を追い越そうとした。

被告坪井は、対向車両(普通乗用自動車)(〈甲〉)が駐車車両(〈A〉)があったことからセンターライン寄りに進行してきたため、加害車両のハンドルをやや左に切って車体をやや左寄せて(加害車両左側と歩道との間隔は約一・三メートルから一・二メートルで、路側帯との間隔は約三〇センチメートルから二〇センチメートル付近)対向車両と離合し、その後ハンドルを右に切って従前の走路に戻ったが、加害車両が左に寄った際、前記のとおり加害車両を追抜こうと加害車両と歩道との間に進入していた被害車両が転倒し、加害車両後輪が被害車両もろとも亡勝義の頭部を轢過し、亡勝義は脳挫傷により即死した。

被告坪井は、右亡勝義及び被害車両の加害車両による礫過時点で、積荷の角材が跳ねるような音を聞いたが、加害車両の後方の動静については、浅野車両が追随していたことは認めていたものの、被害車両の存在については全く気が付いておらず、右の音がした際に左バックミラーで後方を確認した際、被害車両が転倒しているのを確認したが、加害車両が轢過したことに思い至らず、加害車両と無関係の転倒事故であると考えて、そのまま走行を続けた。

4  本件事故時、加害車両及び被害車両の後方を走行していた浅野は、加害車両の走行状態について、急激なハンドル操作等の特段の異常操作はなされず、被害車両が加害車両の左側に進入して追い抜こうとした際には、その間隔の狭さから危険を感じていた。

5  加害車両が道路を通行する際には、道路管理者の許可が必要であるところ、本件事故時の走行について、被告藤原運輸は右許可申請をしていなかった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二  請求原因2(責任)

1  本件事故につき被告坪井に後方確認を怠った過失があることは当事者間に争いがないから、被告坪井には民法七〇九条に基づく責任がある(本件自動車が大型貨物自動車の進入禁止道路であることを認めるに足りる証拠はなく、前記認定の事故態様によれば、道路通行に関する許可申請をしていなかったことは、本件事故につき過失を構成するものではない。)。

2  被告藤原運輸に自動車損害賠償保障法三条、民法七一五条に基づく責任があることは当事者間に争いがない。

三  請求原因3(損害)

1  葬儀費等 一二〇万円

当事者間に争いがない。

2  慰謝料 二〇〇〇万円

証拠(甲六、七の1ないし9、原告林伊男本人)によれば、亡勝義は死亡当時立命館大学工学部の二回生に在学中であり、高校時代からボート部に在籍し、活躍していた健康な男性であったことが認められ、これらに本件に表われた諸般の事情を総合考慮すると、亡勝義の死亡慰謝料は二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

3  逸失利益 三五一〇万九三三八円

証拠(甲三の1、2、原告林伊男本人)によれば、亡勝義(昭和五一年四月一〇日生)は、死亡当時満二〇歳で、立命館大学工学部二回生に在学し、平成一一年四月からは就労し、満二二歳から満六七歳までの四五年間就労可能であったことが認められるから、平成八年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・大卒・男子労働者の二〇ないし二四歳の年収額三一九万六〇〇〇円を基礎収入とし、生活費控除率を五〇パーセントとして、新ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、次の計算式により、亡勝義の逸失利益は三五一〇万九三三八円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

319万6000円×(1-0.5)×(23.8322-1.8614)≒3510万9338円

4  以上を合計すると五六三〇万九三三八円となる。

四  請求原因4(相続)(原告らが亡勝義を各三分の一の相続分で相続したこと)は当事者間に争いがない。

五  抗弁1(過失相殺)

前記認定の事故態様からすれば、亡勝義は、先行車両と歩道との間隔が約一・五メートルしかなく、右間隔は、通常の走行中にも狭まることが十分に予想しうるのであるから、本来的には加害車両の左側に進入して追抜くことは控えるべきであったもので(追抜こうとすれば、自ずと速度違反をすることにもなる。)、仮に、本件の如く進行する場合においては加害車両の動静に格別の注意を払い自ら危険を回避することが期待されると言うべきであり、本件事故発生の主因は右亡勝義の行動にある。

しかしながら、被告坪井も、加害車両により本件道路を通行する場合には、車線のほぼいっぱいを占めて走行することになるのであるから、周囲の車両等の動静に注意し、当該車両等の進行の妨げとならないよう配慮すべきであるところ、本件においては、被告坪井は、追従してきた被害車両について全く気が付いていなかったものであり、この点において過失があるといわなければならない。

以上の事実を総合考慮すると、本件事故における過失割合は、亡勝義七割、被告坪井三割とするのが相当である。

そこで、前記損害額合計五六三〇万九三三八円からその七割を控除すると、一六八九万二八〇一円となる。

六  抗弁2(損害填補)(自賠責保険金三〇〇〇万円)は当事者間に争いがない。

すると、本件事故による亡勝義の損害は填補済みということになる。

七  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

交通事故現場の概況現場見取図第二号

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